板橋区 中古一戸建ての注意点
二〇年前の暮らしを思い返してみよう。
たとえば、お風呂はバスタブの横にバーナーがあって、排気用の煙突が外に出ている「バランス釜」だった。
その後ユニットバスになって、いまは湯温も自動設定のフルオートバスが当たり前である。
情報関連の変化はまさに秒進分歩。
二〇年前と言えば、電話線一本にテレビ用アンテナ端子が一つあれば十分だったが、その後、電話線は二本になり、いまや光通信、BS、CS、CATV、インターネット常時接続などが当たり前になった。
この五年ほどの間に起きた情報系の変化は凄まじく、いま最先端を謳っている設備も、この調子ではあと五年もすれば、時代遅れの陳腐化は免れないだろう。
もともとこの国の住宅は、流行を追いすぎるきらいがある。
「お盆の上の小豆」と言われる国民性で、とにかく流行りものに弱い。
一つの流れができると、みんなでドーッとそれを追いかける。
バブルの頃に流行ったコンクリートの打ちっぱなし建築などはいい例だ。
街を歩いていて、コンクリー卜打ちっぱなしの一軒家を見ると、「ああ、あの頃に建てたんだろうなあ」とすぐにわかってしまう。
しかし趣味や好みは年齢とともに変化するものだ。
世間的にも自分的にも、あまり流行は追わない方がいい。
斬新で奇抜なデザインなどはそのときは面白くても、後で「やめておけばよかった」と悔やむことが多いものだ。
間取りも同様。
先々リフォームが難しいようなレイアウトは避けるのが賢明である。
個性は住み方で出せばいい。
飽きのこない無難なデザインや間取りを選んでも、水まわりや情報インフラに象徴されるような設備などは時代の変化にどうしても取り残されていく。
新しい時代に対応できるようなつくりになっていればいいが、そうでないとやっかいだ。
たとえば、配水管などは傷んだら交換できるようになっていればいいが、古いマンションなどでは建物の壁や床に埋め込んでしまっているケースが少なくない。
これでは交換不可能である。
やがて水質の悪化などが日常生活を脅かすようになる。
自分は「しょうがない。
我慢しよう」と思っても、ほかの入居者が「もう嫌だ。
我慢できない」となれば、建物はまだ使える状況であっても、建て替えを考えざるを得なくなる。
機能的老朽化とはそういうことだ。
そもそもこの国の住宅は、これまで述べてきたように、長寿命を前提としたものではなかった。
売る方も貰う方も地価上昇を前提に、「いずれは転売」「建て替え」と思っていたから、せいぜい三〇年かそこら持てば御の字の住宅しかつくってこなかった。
「いまあるお金で買える家が買えればそれでいい」という消費者自身の安直な住宅観が、いわゆる「安かろう悪かろう」の一戸建てやマンションの供給を助長した面も否定できない。
極小敷地の建て売り三階建てなどはその最たるものだろう。
一筆の敷地を羊糞でも切るように分筆して、そこに細長い二階建てを数軒建てる手法は、俗に「羊糞切り」などと言われる。
体を横にして寝たら家の端から端まで届きそうなほどの細長さで、おまけに隣家の壁とは数十センチしか離れていない。
体も入らないほどで、よくまあ、こんなものを建てるもんだと呆れてしまうことしばしばだ。
その見てくれの悪さもさることながら、ほとんどが違法建築で、火事にも地震にも弱いと言われているのに、まだ上地神話の中で夢でも見ているのか、「S区でこの値段で一軒家が持てるなら」とでも思うのだろう。
消費者自身が安全性より割安感を優先して、平気でその手の物件を買ってしまう。
これではハウスメーカーやマンションメーカーの思うツボ。
割安感(=お貰い得感のある低価格設定)に少しばかり見てくれのよさでもまぶしておけば、「あら素敵!」とコロッと参ってしまうのも当然である。
挙句にこれまでは、「どうせいずれは売るんだから」とあまり維持管理に熱心ではなかった。
お金を惜しまず、外壁を修復したり、屋上の防水をし直したり、交換可能な設備は早め早めに取り替えるなどすれば、構造的老朽化や機能的老朽化はかなりの程度で防げるとされている。
そうしたメンテナンスを軽視してきたのだ。
築後三〇年以上のマンションが「高齢」「老朽」と呼ばれ、なかにはそろそろ建て替えも視野に入れないといけないような物件も少なからず存在するのは、まさにそのことと深く関係している。
もともと安普請だったケースももちろんあるだろうが、管理組合(入居者自身)がメンテナンスを怠ってきたがゆえに、建物や機能が老朽化し、もはや修繕では追いつかない状況に追い込まれてしまったケースが少なくないのである。
国土交通省の統計(二〇〇〇年)によると、全国の分譲マンションの総数は約三八六万戸。
このうち築後三〇年以上の「高齢、老朽マンション」は一二万戸で、一〇年後には九三万戸に達する見込みだという。
高齢、老朽マンションを棟数で言うと、七大都市圏で約三八〇〇棟、うち二ハ○○棟が東京周辺に集中している。
このうちの相当数が建て替え問題に直面している。
しかし建て替えは極めて難しい。
これまでの建て替え実績はわずか一七〇件程度しかない。
しかもそのうちの約一〇〇件はH大震災の被災にともなう建て替えで、いわゆる老朽化にともなうそれは約七〇件にとどまっている。
マンションの建て替えを国難にしている最大の理由は、資金調達と合意形成の難しさにある。
被災以外の建て替え事例は、そのほとんどが、それまでのマンションより大きなマンションに建て替えて、入居者戸数を増やし、その増えた戸数分を売却することで建て替え資金を調達した。
増床分の売却代金で建設資金の全額をカバーし(あるいは相当額をカバーし)、それまでの入居者は一銭も払うことなく(あるいはほとんど払うことなく)、建て替えした新築マンションに再入居できたのである。
いわゆる「等価交換方式」というやつだ。
これは容積率に余裕があって、五階建てを四階建てにするなどして人幅な増床分を確保できたのと、それだけ住宅供給を増やしても、すぐに買ってくれるだけの需要(マーケット)が存在していたからこそできた芸当だ。
つまりこの方法は、・余剰容積率がある・増床分を売却できる市場環境があるの二つが揃わないと成立しない手法なのだ。
余剰容積率については広い敷地に低層の集合住宅という公団・公社の物件なら可能だろうが、民間の場合はまず無理である。
公団・公社ほど容積率に余裕がある物件は少ない。
たいていは目一杯使っている。
仮に容積率に余裕があったとしても、五階建てを一〇階建てに建て増して、それが売れるか、という問題がある。
何しろ果てしなく続いているマンション大量供給の時代である。
首都圏の中心部でさえ、よほどの好立地でないと、売り切るのは難しい。
余剰容積率を利用した増床分売却による資金調達が難しいとなれば、建て替え費用は全額入居者が自己負担しなければならない。
解体費用などを含めると、一戸当たり最低でも一〇〇〇万円以上、多くは二〇〇〇万円前後の負担になるだろう。
実際、東京都心の築三〇年の某マンション(入居三〇世帯)が建て替えのための見積もりを取ったら「最低でも三億円」と言われたそうだ。
二戸当たり一〇〇〇万円である。
H大震災の神戸のある被災マンションの再建では、特例で国が建て替え費用の二〇%を特別補助したが、それでも一戸当たり約一七〇〇万円の費用がかかった。
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